投稿者
 メール
  題名
  内容 入力補助画像・ファイル<IMG> youtubeの<IFRAME>タグが利用可能です。(詳細)
    
 URL
[ ケータイで使う ] [ BBSティッカー ] [ 書込み通知 ]

スレッド一覧

他のスレッドを探す  スレッド作成


ランチ営業

 投稿者:ピクレルジュラ  投稿日:2017年 5月23日(火)14時37分14秒 aa039024.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp
編集済
  カレー、焼きそばともリニューアルに成功。「食べ物が安くて美味しいライブハウス」
という評判も広まりつつあった。これを食べるために、知らないバンドだが、
ついでにライブを見ようという客も来るようになった。
本末転倒な感じがするけど、バンドが呼んだ客しかいないことより健全な気もした。

マスターはカレーの評判に気を良くした。「ランチ営業しようかと思うんだ。」

へっ?耳を疑うヒロ。
「20食作るのも、50食つくるのもそんなに手間は変わらないよ。
この店ももともとレストランだったし、ガスのレンジも復活させるよ。
昼間店を開けておくのもったいないと常々思ってたんだ。」

マスターいわく、自分一人でやるつもりだそうだ。
とりあえず、水曜日と日曜日の週二日だけやるそうだ。

「なんでその日なの?」ヒロがきく。
「この界隈の飲食店の定休日が多い日なんだ。」

メニューはカレーとドリンクのみ。ただし、甘口のカレーも加える。とのこと。

「甘口?」ヒロは不思議がった。「激辛とかじゃなくて?」
「激辛とか、そういう時代はもう終わったんだ。それに甘口で美味しい
カレーって案外少ないんだ。」
価格は夜と同じく500円。甘口はなんと250円。
この意図をマスターは語らなかったが。そのうちヒロにもわかることに。

ヒロは手伝いをさせてくれといったが、マスターは
「もういくらなんでも、それさせたらブラックすぎる。気持ちだけ受け取るよ。」
とヒロの申し出を断った。

何か気になるヒロ。そもそもこの流れは自分が発端になっている。
マスターは働き者だが、過労で倒れては元も子もない。

「お客として行こう。なら文句ないでしょ。」

数週間たった日曜日の昼、Mariaとナリ姐を誘い、
自分のバイト先へお客として行く。

「おめーのレシピだからなぁ?どうだんべ。」意地悪く言うナリ姐。
「おいしいみたいだよ。いつも売る切れるし。」とMaria。
でも彼女もまだ食べたことがない。

店内はそこそこの入り。若い客が多い。場所を考えれば当然か。
マスターは、よう皆さんお揃いで!ありがとうございます。
などと、手は休めずに言う。
「うちのバカ娘んがー、いつも、いーーつもお世話になっておーります。」
ナリ姐がむかつく冗談を言う。しかし、軽口は食べるまでだった。
「んんん、うまい。」Mariaとナリ姐は同時に言う。
「なんだよー、こんなうまいもん作れるんだったら言えよー。
うちに来たとき作らせたのに―」とナリ姐は言った。

食べ終えて一息ついて、店内の客を改めて伺うと、あれっと思う。

若い客に交じって、お年寄りの客が一人来ている。マスターと親し気に
話している。このカレーは辛すぎなくていいね。なんて話をしている。

そこから少し離れた席に、小学生くらいの女の子が一人で座っている。
やはり甘口カレーを食べている。マスターはやはり話しかけている。
「リカちゃん、おいしい?」とかきくと、女の子はコクリとうなずいた。
カレーを食べ終えた女の子にマスターはそっと、バニラアイスを
出した。女の子は驚いて「食べていいの?」と聞いた。マスターは
笑いながらうなづく。ものすごい勢いでアイスを食べるリカちゃん。
「リカ、一年ぶりにアイス食べた。」とマスターに向かって叫ぶ。
「ごちそうさま、カレーもアイスもとってもおいしかった。」
そういいながら、お店を出ていく。マスターはまたおいで。などと
いう。代金を払わなくていいのか?見ているヒロはハラハラする。

マスターはリカちゃんを見送ると、戻ってきた。
「今の子、可愛かったろ。近所の子なんだ。難しい家庭みたいなんだけど、
良い子だろ?」

ヒロはなんとなく、わかってきた。甘口カレーは初めから儲け
無視で、お年寄りに安価で売ったり、親にご飯を作ってもらえない子供
にタダで食べさすつもりだったんだ。マスターなんていい人。
ヒロは涙ぐんでマスターみなおしたよ。といった。
Mariaとナリ姐も涙ぐんでいる。

「いやいや、そんな、そんな。ああいう子が大きくなって、
夜、この店に来てくれるかもしれないし、さっきのお爺さんは
さ、この界隈の大地主なんだぜ。」
悪代官の顔をしてマスターは言った。
でもヒロはランチ営業も手伝うことにした。リカちゃんが週に二回
これるように土曜日に一人でカレー以外のものを出すことにした。
「おれっちも手伝いたいなー」ナリ姐もいう。「ボランティアでいいからさ。」
結局、土曜の昼はMariaも含め、3人、無給で働くことになった。
そのかわり、その時間の前後にバンドの練習をしても良いことになった。
「これって結構いいんじゃねー」ナリ姐は言った。
 

焼きそばを作る

 投稿者:ピクレルジュラ  投稿日:2017年 5月23日(火)12時31分8秒 aa039024.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp
編集済
  カレーフェアは絶賛続行中であった。
しかし、いつもカレーは開店してから30分くらいで
売り切れた。ライブハウスは開店したから、演奏が始まるのが
ちょうど30分後のことが多い。だから忙しくなる前に
売り切れてちょうど良いかな、とヒロは思っていた。

しかしマスターは
「カレーもっと売れるね。今、10食分用意しているのを
倍にしてもいけるかも!」などと言い出した。最初は消極的だったのに。
「つくることはできるかもしれないけど、持ってくるのが大変かも」
ヒロは答えた。そもそもカレーは5食も出れば売れたほうだったのだ。
10食で満足してほしい、ヒロは思った。
マスターは言う「いやー、カレーの利益がどうというわけじゃないんだ。
最近、動員が増えているんだ。少しずつね。これはカレーの効果だと
思うんだよ。もし、よければ、カレーのレシピを教えてくれないかな」
「マスター、自分で作るんですか?簡単ですよ。」ヒロはその場で
レシピを書いた。暗記しているので。
「これだけ?」「これだけです。」「ふーん、にわかには信じがたいが。」

後日、マスターはいきなり20食分のカレーを作ってきた。
うまい!ブラインドテストをしてもヒロのカレーと区別をつけられるような
客はこの店に来ないだろう。飲食店で働いてきた経験が豊富なマスター。
料理も手慣れたものだった。ヒロは感心した。
「いままで、ありがとう、やっぱボランティアをさせるのは心苦しい。
カレーは俺が作ってくるよ。家も近いしさ。」マスターは言った。
「あ、でも、客には内緒だぜ。ヒロちゃんが作っていることにしておこうぜ。」
悪代官の顔でそう言った。

また暇になったヒロ。マスターは知らないが、暇をなくしたくて
やっていたところもあったんだけど。
「マスター、焼きそばも変えたいんですけど。」

カレーに代わって焼きそばづくりが始まった。

今までは大手食品会社製の冷凍焼きそばを電子レンジで温めていた。

作り置きのきくカレーと違い焼きそばは、手作りに向いてないような
気もした。そもそもお店には、電子レンジと業務用炊飯器、そして非力な
IHコンロしかない。今まで良くフード出してたなー、って感じの設備。

ヒロは考えた。焼きそばは出来立てが美味しい。鉄板でもないかぎり、
一度にたくさん作ると不味い。べしゃべしゃになる。家庭では
一人前ずつ作るのがベスト。これを逆手にとって…。

ヒロはソース味以外の味も作ることにした。上海風塩味、
コリアンダーの利いたエスニック風など。

面倒くさいが一人前ずつ作る。材料さえ切って準備すれば
一人前はスグできる。できたものはラップにいれて冷凍する。
できたての焼きそばは、冷凍保存で、できたての風味が結構
保てることをヒロは経験的に知っていた。
これをクーラーバッグでお店まで運び、お店の冷蔵庫でまた冷凍。
注文がきたらレンジでチンだ。

試作品をマスターが食べる。
「うまい!どの味もうまい!これなら少し価格上げてもいいかな。
個人的には味はパーフェクトだが・・・」
「パーフェクトだが?」
「もう少し、味を濃くしてくれるといいね。」
「どうして?」
「ビールの売り上げが増えるからさ。」
悪代官の顔でマスターはにやりと笑った。
 

カレーを作る

 投稿者:ピクレルジュラ  投稿日:2017年 5月22日(月)20時31分34秒 aa039024.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp
編集済
  だいぶライブハウスのバイトに慣れてきた。
ヒロは、この辺りでやりたいことがあった。

その店で出しているフードの改善だ。
ライブハウスはチャージとドリンクが主な収入だ。
フードは手間がかかる割には利益率も高くなく、
あまり力を注がない店も多い。

しかし、その店は繁華街のはずれにあり、周りに気の利いた
飲食店がない。ヒロがくそまずいと思ったカレーや焼きそば
でも結構頼む客や出演者がいる。マスターの方針で安めの
値段設定なのも大きい。打ち上げも、そのままこの店で
やることも多く、フードは結構売れるのであった。

それでも業務用レトルトのカレーの味がヒロには耐えがたかった。
薬品のような味がするのが嫌だった。マスターに提案する。
「あのーカレーの仕込みを家でやってきてもいいですか?」
「え、なんでそこまでするの!今のカレーでいいじゃん。
それに家で働いた分の給料は出せないかもよ。ボランティアでいいの?」
「ボランティアでいいです。カレーには個人的にこだわりがあるだけなんで。」
「ホントにいいの?うーん、それじゃとりあえず期間限定でやってみよう。
ヒロちゃん、PAとかだけでもすごい貢献してるんだし、無理しないでね。
あ、経費はちゃんと請求してね。」

ヒロは終電近くの電車で地元まで帰る。地元には深夜までやっている
大型激安スーパーがある。しかも、深夜に値引きされたものが結構
並ぶのだ。豚肉、玉ねぎ、にんじん、ジャガイモ、しょうが、りんご、
などなど。みんな5割引き以下だ。最後に業務用カレー粉を買った。
領収書もしっかりもらう。

帰宅すると、母親が作った夕食がラップにかかって食卓の上にあった。
これをレンジで温めて食べるのが日課だ。
遅い夕食を一人食べるヒロ。美味しい。ヒロの母親はとても料理が
上手い。ヒロが味覚が肥えているのもそのせいなのだ。
母親は素材には凝らない。ありあわせのもので美味しいものを
作るのが得意なのだ。ヒロもそれを常々見習おうとしていた。

ヒロのカレーに秘密はない。手間を惜しまないだけだ。
きつね色の焦がし玉ねぎを作ったり、丹念に灰汁をとったり、
リンゴやしょうがを擦り入れたり、普通のことをしている
だけだ。あと、前日に作ったものを翌日食べるようにしている。
カレーは二日目が美味しいので。

これは売り物だ。万が一でも髪の毛などが入ってはならない。
ヒロはマスクをしたうえ、バンダナを巻いた。
モー娘。石田あゆみサイン入り、だーいしブルーのバンダナ
を使うのはもったいないと思った。が、深夜なのですぐに
見つかったそれを使用することに。自炊派らしい石田あゆみんも
こういうことなら許してくれるに違いない。
深夜、両親を起こさぬように静かに料理をする。
ペル子だけはじっと(縫いぐるみだから当たり前だが)
この作業を見つめている。
「この偉業を見学できるのはお前だけさ」ヒロはぺル子に言う。

深夜3時、カレーは完成する。ご飯は店で炊くのだが、台所を
使わせてもらった礼もあるので、両親の分のご飯を仕込む。
父親にはお弁当で持って行ってもらおう。二人分の代金を
自分のお金からお店に払う真面目なヒロであった。

翌日、お店では、「期間限定カレーフェア 特別価格500円」と、
達者な毛筆でマスターが書いていた。既にヒロは出演者や常連客のなかでは
人気者だったが、そのヒロの手作りカレーということで、
カレーは開店後30分で売り切れてしまった。

「うんまいうんまいよー」涙を流して食べるやつもいた。
「お母さんのカレーを思い出すよ」しみじみ言うやつもいた。
「専門店並みの味だ。これで500円は安すぎだ。」
皆大絶賛だった。

翌日以降もカレーフェアは続いた。snsなんぞで勝手に
情報が拡散された。このカレーのおかげで、自分の知り合いの
バンドが出演しない日にも来る客が増えた。これはお店にとっても
出演者にも大きなことだった。

その店もヒロのおかげで、少しずつ変わっていった。
 

Mariaのはんだ付け

 投稿者:ピクレルジュラ  投稿日:2017年 5月17日(水)00時52分12秒 aa039024.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp
編集済
  ヒロのライブハウスでのバイトは順調だった。

でもピンチってものは何かしらあるもので。

夕方からリハが始まった。ギターが3人いるバンドが出る。
ところがどうもギターアンプが一台調子が悪い。
何とかリハは終えるが、その調子の悪いアンプはリハ後に
完全電源が入らなくなってしまった。

「予備のアンプはありますよね?」青くなって聴くヒロ。
「今、修理に出して戻ってないんだ。」やはり青くなってマスター。

ヤバイ。本番まであと一時間と少し。

「近所に同業者いないんですか?借りるとか?」ヒロが聞くと、
「最近、つぶれちゃったんだよ。レンタル業者もつぶれた。
遠くならあるんだけど、時間が足りるかな?修理できる楽器屋は
今日休みだし・・・」狼狽するマスター。万事休すか?

最悪ミキサーに直差し・・・なんてなー怒られるなー。
うーん。そこでヒロは思い出した。
「そだ! 灯台下暗し。でもつかまるかな?」

つかまった。Mariaは割と近くにいた。買い物の途中らしいが。

「可及的速やかに私のバイト先に参集せよ。鬼軍曹より」とメールをうつ。

「あいあいさー」とMaria。30分くらいでやってきた。

状況を説明する。

すぐさまアンプをいじり、自分のバッグからドライバー、
テスター、半田ごてを出すMaria。

「それいつも携帯してるんだ?」あきれながらヒロ。

「女子のたしなみだぜ。」とMaria。

すばやくシャーシをあけて、すぐさま「あっ、テスターつかうまでもない。」
簡単な電源コードの断線だった。
「物足りない。もう少し、はんだ付けさせて。」
はんだが溶ける独特なにおい。
「げー苦手だこれ。」とヒロ。
「そうかーいいにおいじゃん。もっとも毒なんだけどね。」
とMaria。
配線が怪しげなところ、はんだ付けが荒いところをMariaはやり直した。
「これで今日はオッケー。でも電解コンデンサーや真空管は、そろそろ限界かも。
すぐに変えたほうが良いよ。」と、シャーシを閉めながらMariaは言った。

音だしチェックのために出演者のギターを借りて、Mariaが弾いてみる。
すんげー良い音。さっきのリハとは雲泥の差。試しにギターの持ち主も
弾いた。Mariaより演奏も音色も若干落ちる。
「弾く人が良いと違うんだね。」赤面しながら、彼はつぶやいた。

そろそろ開店の時間。マスターはMariaにありがとう!ビール奢るよ!
といったが「ドクターペッパーください。もしくはルートビア」
とMariaは答えた。

「ありがと」ヒロも嬉しそうに言った。
「いつか私たちでライブハウスやろうよ。資本と内装のデザインは
ナリ姐で」こっそり囁いた。
 

ヒロの新しいバイト

 投稿者:ピクレルジュラ  投稿日:2017年 5月16日(火)22時35分24秒 y227001.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp
編集済
  ヒロはジミーに別れる意思を告げる。
唐突な言葉に狼狽するジミー。当然すぐには
受け入れがたい。

感情的にならずにはいられない。きれいにかっこよくは
いかない。何しろ二人とも若い。今まで、こういう経験もなかった。

どれだけ話しても堂々巡りであることが彼にもわかった。
スグにすべて受け入れることはできなかったが…

こうした苦い別れであったが、ケンカ別れしたわけではない。
また会えるよね。絶対に会うよ。こう約束して話は終わった。

ヒロは抜け殻のようになってしまった。
少しでも暇があれば彼のことを考えてしまう。
ため息ばかりでてしまう。

これはいかん。こんなんではいかん。いつまでも
ふっきれない。だいたい私は暇すぎるのがいかん。
とりあえず、バイトに入る回数を増やそう。忙しくしよう。
そう思い、バイト先のカフェに電話した。営業時間は
はじまっているのに、誰もでない。変だな。カフェは
自宅から歩いて10分のところにある。近さで選んだバイトだ。
ヒロは直接行ってみることにした。

愕然とするヒロ。バイト先は永久に閉店したようだ。
まことに勝手ながら本日をもって…云々と入口のドアに貼ってあった。
「勝手すぎる…先月のバイト代もらってないのに。」
ヒロはへたりこんだ。

ヒロは卒業後、進学も就職もしなかったのはバンドに時間を
かけたかったからだ。これを仕事にできるかどうか
はあまり考えなかったが、自分の楽曲や演奏が、どのように世の中に
受け入れられるのか、全力で試したかった。学生をやりながらでもできる
と両親からも何度も説得された。事実Mariaはそうしているが…

とにかくヒロとしては生活の中心を他のものにしたくなかった。
バンドの練習は週2回、ライブは月2回だった。
残る時間はたっぷりあるが、他の時間は楽器の練習とか、作曲とか、
苦手な作詞とかにあてたかった。音楽理論も、テキストを買って
独学で勉強を始めた。だから、バイトも最低限しか
やらないようにしていたのだ。そのバイトもなるべく楽で家の近く、
そう思っていた。

ヒロは新しいバイトを始めた。ライブハウスで働きだしたのだ。
宇宙ダコでも時折出演するハコだった。
ライブのあと、マスターとの雑談のなかで、いまいるバイトの男の子が
もうすぐやめるが、後釜がみつからず、かなりピンチだという話だった。
はじめは、へー大変ですねーとか他人事のように言ってたヒロだったが。

「あの、私じゃだめですかね?」ダメ元で聴いてみた。

びっくりするマスター。「これね、結構大変なんだ。俺とバイト一人だけで
まわしてるんだ。それ以上人件費無理だから。機材のセッティングやPAも
できないといけないし、簡単な調理もしたりするんだ。」

たしかに、バイトは体格の良い男の子だった。でも、小さい店だから、
ギターアンプやベースアンプはそんなに大型じゃない。PAも小規模だ。
ちょうど高校時代の軽音部が管理していた機材くらいだ。
PAも多分大丈夫。高校時代、一番PAを担当していたのはヒロだった。
ヒロのミキサーに関する知識やスキルに勝てるものは男子のなかにも
いなかったのである。
 調理は全然問題ない。その店で出す、くそマズイカレーや焼きそば
を楽勝で改善してみせる自信があった。

「大丈夫、やれます。それに他にあてがないんでしょ。
使えるかどうか、とりあえず明日から引き継ぎかねて見習いに来ます。
もちろん手弁当で。」ヒロは一気に言った。

「おっ おおう じゃあ明日から。でも厳しそうだったら諦めてね。」
とマスターは言った。

確かに、力仕事多い。慣れないせいもあるがきつい。シャドーワーク
もやたらある。トイレの掃除とかもある。

でも、ヒロは思った。「これぐらいしないと、いつまでも鈴木君
(ジミーの地味な本名)のことばかり考えちゃう。」

ヒロのミキサーの知識に前任のバイト君は驚いた。
「すっげー俺、専門学校で習ったのに。独学なんだー。宅録か
なんかやってるでしょー?へっ中2!中2からやってんだー。
びっくりだねー。女の子で珍しいねー。」

機械の知識だけではない。ヒロは耳が良いし、勘が良い。PAも
結局バランスが取れているか、音質が良いか、エフェクトが
適切か、判断するのは耳なのだ。
ヒロが幅広く音楽を知っていることも判断や、演奏者との
コミュニケーションに役立つのであった。

海綿が水を吸うように仕事を覚えるヒロ。マスターは
「こりゃ大当たりだ。」にんまりした。
「時給は最低賃金法すれすれの安さで、ストレス満載だけど
本当にやってくれる?」
 

初恋サンライズ

 投稿者:ピクレルジュラ  投稿日:2017年 5月14日(日)22時05分49秒 y227001.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp
編集済
  ヒロが言うには、ライブの直前にジミーの留学が決まった。
ギター職人コンテスト優勝の副賞だ。
数年、アメリカに行くことが決まり、そのまま現地での就職の
可能性も生じた。それでも彼はヒロとの関係は遠距離恋愛でも
いいからつづけたいといった。いつかは帰国するし、待っててほしい
とも言った。ていうか、ひろ子ちゃん、大学も行ってないし、プ―なんだから
二十歳なったら結婚して、一緒に来るなんてのはどうだ。なんて案もあった。

 混乱するヒロ。ジミーとのことはラブラブ真っ只中だが。

 バンドはどうする。他の二人は大学にも通っているし、バンド以外の
進路も少しは考えているようだ。自分はバンドしかない。
自分のアイデンティティはバンドウーマンだ。他に何もない。
あとはテキトーなバイトや家事手伝いしかない。

 「アメリカでバンドやれば良いよ。ひろ子ちゃんなら引く手あまただよ。」
ジミーは言うが。

 ヒロは考えた。考え続けて、そして答えを出した。
宇宙ダコはやめない。そしてジミーとは残念すぎるけど別れる。
まだ話していないが、そのうち告げる。
ジミーとは決して別れたくないが、この恋がこの先ずっと成就
するのかは、もとから不安もあった。

 中3の「あの事件」のことは彼も忘れてはいない。話題には
しないし、彼の優しい性格からいって、忘れたふりをし続けるだろう。
でも彼の立場で考えるとヒロは胸が痛んだ。
今は、熱病のような恋に二人とも浸っているからいいんだけど。
 これもいい機会なのかもしれない。ヒロはそう決めて一人嗚咽した。
そうして数日過ごしたのち、例のライブがあったのである。


 こういう話を涙をながしながらMariaに話した。
Mariaもヒロの中3時代の話は知っていた。聴いていて胸が痛くなる。
そして言った。
「大丈夫?後悔しない? バンドを選んでくれるのは嬉しいんだけど。」

 ヒロは首を横に振った。

 もう朝が来ていた。バスの始発にはまだ時間がある。
二人はファミレスの駐車場に出た。

 「送っていくよ。」車のキーをクルクル回してヒロは言った。

 「嬉しいけど、私道わかんないんだ。」と方向音痴のMaria。

 「大丈夫。パパの車には最新式のカーナビがあるんです。」
自慢げに言うヒロだった。

 朝焼けに燃えるような駐車場。
ヒロはエンジンをかける。
カーラジオから つばきファクトリーの
「初恋サンライズ」が流れてきた。

 「この曲、好きなんだ。サンらー あーいず。つばきでは『まおぴん』
が一推しだな。Mariaは?」
「やっぱ『ききちゃん』でしょ。イヌ好き仲間だし。」

 二人は高校時代からアイドルはハロプロだけ好きであった。
他はサブカルだったり、洋楽だったり、ルーツミュージックだったり
コアなものばかり聴くのだが。
 

「ホーム」のファミレス

 投稿者:ピクレルジュラ  投稿日:2017年 5月14日(日)20時17分47秒 y227001.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp
編集済
  ヒロとMariaの地元は、ともに郊外の住宅地。
その中間地点の座間市もまぁ似たようなところ。
気の利いた店はなかなかない。

二人はいつも大手チェーンのファミレスで会うことが
多かった。特にヒロが自動車の免許をとってから。
あまりお金のない二人は、ここで何時間も話したり、
別々にスマホをイジリながらウダウダ何時間も過ごすことが
多かった。ヒロに彼氏ができてから、そういうこともめっきり
減ったが。

「親友をとられたようで寂しかったりもしたんだ。」
先に着いてヒロを待ちながらMariaは思っていた。
ヒロは少し遅れるらしい。2杯目のドリンクを取りに行こうと
したところでヒロが到着。

 「ごみーん。まったー?事故で道路が混んでてさ」
自動車のキーをクルクル回しながら席に着くヒロ。
店員の女の子に、ドリンクバーとサラダバーお願いします。
と即オーダー。
 ヒロはこういうときに迷ったことがない。
Mariaが「えーっとねー、うーん、キャー助けて―」というのを
何十回繰り返すのと対照的だ。Mariaは趣味や関心は男の子の
ようなものばかりだが、こういうところは極めて優柔不断系
腐れ女子なのだった。

 「やっぱ女の子同士は気楽で良いね。服もさーテキトーに
その辺にあったもの着てきただけだよ。今日のMariaのかっこは
可愛いけどね。どっか山でも登ってきたの?」
Mariaのごっつい靴を見てヒロは軽口をたたいた。

 「丹沢のほうの山に登ってきた。お父さんと。」まじめに
答えるMaria。Mariaは山ガールでもあったのだ。

 「へーホントに登ったんだーすげー」とヒロ。
「そうだみてみて、本日唯一のおしゃれ。ネコちゃん
帽子。ペル子を帽子にしたの。ナリ姐が作ってくれたんだー。
今日、宅急便で届いたんだ。かわええーでしょ」
マシンガンのように話しまくるヒロ。もっぱら相槌をうつ
Maria。そんな調子であっという間に数時間がたってしまう。

 本題が切り出せず、焦りがつのるMariaだった。

 「そういえばさ、この間のライブ、ごめんねー。
私、調子乗りすぎちゃったよ。鈴木君(ジミーの地味な本名)からもさ
『公私混同はいけないよ』とか注意されちゃったよ。鈴木君
ビデオも録画しててくれてさ、それ見たら恥ずかしいのなんのって
客もメンバーもみんなドン引きだしさ。顔から火が出たぜ。」
今も赤面しながら話すヒロであった。

 話がいきなり本題に入り、しかも勝手に解決してしまった
ことにMariaは驚きつつも安堵した。
「わかってんなら良いよ。ナリ姐にも直接、今と同じこといいなよ。」

 「うん、そうするよ。宇宙ダコのことではナリ姐にも相当世話になってるのに
自分のことばかり考えてたと思うよ。」ヒロは続けた
「言い訳するわけじゃないんけど、この間はメンタルもボロボロ
だったから。ライブ直前にいろいろあったんだ。」
 

omake

 投稿者:ピクレルジュラ  投稿日:2017年 5月 9日(火)23時32分9秒 y225004.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp
編集済
  「おねぇちゃん、向こうから赤い髪の毛の人が来たよ。」

「目を合わせちゃだめよ。声をかけられても振り返らないで。」


「おおー、久しぶり。小学生の私、中学生の私。どの時代も
可愛かったのねー」


「何かよくわからないこといってるよー。」

「反応しちゃダメ。スルーしなさい。無視。無視。」
 

おまけ

 投稿者:ピクレルジュラ  投稿日:2017年 5月 9日(火)21時41分44秒 y227001.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp
編集済
  思いのほか、ちびヒロが上手く描けたので

こういう小学生女子っているよね。
中坊ヒロもメロメロです。小学生時代の自分なんですが。


そういえば、5月5日はサンプラにハロプロ研修生
を見に行った。正直ハロコンよか楽しんだぜ。

橋迫鈴ちゃんという、背が低ーい小学生や
北海道研修生(含む小学生)も全員見れたぜ。

言っとくが、ロリータとかそういうのはまったく関係ない。

「孫感覚」というのが正しい。

江戸時代なら孫の一人二人いたっておかしくない年齢の
この俺さ。ハロプロ研修生に同世代が群がるのもそういうことさ~。

JKとか言ってるやつはケツが青いぜ~それはそれでまた違うか~。
 

ヒロ、小学生時代の習い事

 投稿者:ピクレルジュラ  投稿日:2017年 5月 9日(火)18時12分11秒 y225004.dynamic.ppp.asahi-net.or.jp
編集済
   ヒロは幼い頃から、ピアノとヴァイオリンを習っていた。
音感というものは鍛えることもできるが天性の部分が
大きい。先生が指示したことをすぐに再現できる
耳の良さ、勘の良さがヒロにはあった。
 加えて、練習の合間に、ヒロが即興の曲を作ったり、
流行っている曲の旋律を弾き、かつそれを適度に崩して
弾けることに周りの大人は驚いた。
 こういう能力はクラシックの演奏家には邪魔かもしれない。
でも、先生たちは、ひろ子ちゃんは演奏家より、作曲家になると
いいわね、とヒロの遊びを止めたりはしなかった。

 ヒロにはクラシックの演奏家になるには難点があった。
先生が手本を示したことをその場で忠実に再現できても、
次の練習のときに忘れていることが多かったのだ。家に帰って
おさらいをする時点で忘れていた。
 先生たちはヒロが楽しく演奏して、もしかして作曲などの
道に進めればよいぐらいに考えたのである。

 ひらめきは記憶力が良いひとからは生まれにくいという
説がある。適度に忘れて、脳のメモリーに余裕がないと
インスピレーションは起こりにくいというものだ。
 

/51